自由が丘、三田の中学受験専門塾、スタジオキャンパス代表の矢野耕平先生が、主に国語指導者に向けて発信する新「中学受験の現場から」。
日頃、自身の指導科目や中学受験生たちと向き合う中で矢野先生はどのようなことを考えているのか――。
第1回目より時間が経ってしまいましたが……
中学受験専門塾スタジオキャンパス代表の矢野耕平と申します。
Educational Lounge初回の記事よりかなり時間が経ってしまいました。お詫び申し上げます。
この記事は国語指導者対象に執筆していますが、保護者の皆様にとってもご参考にしていただければと思っています。
今回は「中学受験の記述指導(第2回)」です。
前回記事のラストで、「次回の記事では小学生の記述練習についてわたしの実践例や自作のプリント教材を紹介したいと思います」と書きました。
そこで、今回はわたしが実践して確かな効果の見られた「記述指導」について詳述していきましょう。
「ことば調べ」という取り組み
わたしが経営する中学受験専門塾で自身が担当する小学校5年生、6年生に毎週課している「ことばしらべ」を紹介します。
この試みを通じて、子どもたちの記述作成能力のみならず、語彙力を増強するうえで大変効果があったと自負しています。
ことばの意味を辞書で調べさせるだけでなく、必ず例文を作成させるのがポイントです。
わたしは文章に登場することばをランダムに(←ここが重要!)3語選び、その3語を用いて80字~120字の例文を作らせています(1語だけだと辞書に載っている例文を丸写しするだけです)。この手の課題は辞書を引いたりネットで検索したりするだけでは何も対応できません。だから、子どもたちはそれぞれのことばの関係性や意味について熟考し、丁寧に例文を仕上げることになります。この「熟考」の時間こそが、子どもたちの語彙を育む大切な一時となるのです。
子どもたちが作成した例文を見てみよう
それでは、小学校6年生の男子と女子の実際の例文を紹介しましょう。前者は「苛む」「理不尽」「やおら」、後者は「場違い」「源泉」「たおやかだ」という3語を用いた例文です。繰り返しますが、例文を作成しやすい3語をセレクトするようなことは一切していません。子どもたちに覚えさせたい語を文中からピックアップし、それを登場順に並べただけです。
細かな部分では幾つも訂正(添削)しなければならない文章ですが、彼ら彼女たちが熟考して文章をひねり出していることが伝わるのではないでしょうか。
ことば調べ①「苛む」「理不尽」「やおら」
ことば調べ②「場違い」「源泉」「たおやかだ」
ストーリーを創作する意味
さて、ランダムに3語を指定しているがゆえに、一見何のつながりのない3語につながりを持たせていく……例文を作成する際にはそのための「ストーリー」を創作することが必要です。わたしはこの作業に大きな意味があると感じています。
考えてもみましょう。子どもたちの読解で登場する「条件記述問題」は、文中の表現を幾つかつなぎ合わせて解答を完成させることが求められているからです。もちろん、この場合、文脈を無視した「創作」は論外ですが、この例文作成は「離れた」表現をつなぐために必要な要素を瞬時に集める訓練にもなるのです。
さらに、指導者サイドからすると、子どもたちひとり一人がどのような「思考回路」で例文を作成しているのか、これらの添削をするとそのことが手に取るように分かるのです。各人が抱えている記述の長短を把握することができ、その子の成績を伸長させるためのチェックポイントにもなるのです。
この「ことば調べ」ですが、もちろん、子どもたちに取り組ませたところで「語彙力」や「記述作成力」がすぐにつくわけではありません。一朝一夕には成果が出ないのは当たり前です。わたしの経験からすると早い子で3~4か月、遅い子だと1年くらい経ってようやく「ことば調べ」を継続的に取り組ませた効果が出てきたと思えるようになります。大切なのは一度これに取り組ませるなら、継続が何よりも大事であるということです(一度フォーマットさえ作ってしまえば、プリント作成はさほど時間が要りません。もっとも、添削をし続けるのは根気が要りますが)。
子どもたちの「例文」作成の意欲を喚起する方法
前回の記事で申し上げたように、「記述」は国語を学ぶ上での「基盤」です。
子どもたちが「書く」ことを楽しめるようにじっくりゆっくり指導してやってください。
最後に、子どもたちが「ことば調べ」に楽しんで取り組む工夫の一つとして、わたしの作成している「今週のエクセレントさん」という毎週子どもたちに配布しているプリントの一部をお見せしたいと思います。
ご覧になるとお分かりになると思いますが、「ことば調べ」の例文作成の「優秀者」の発表です。これをおこなうことで、少しでも良い例文を作成しようと意欲を喚起できます。そして、何より自分の同級生がどのような例文を作成しているのか、あるいは、どのような例文が評価に値するのかを知ることにも大きな意味があるのです。
次回は子どもたちがやってしまいがちな「記述のミス」のチェックポイントを説明する予定です。
「中学受験の現場から」記事一覧
第一回 記述作業こそ読解の基礎である――中学受験生への記述指導
第二回 語彙力・記述力向上に役立つ「ことばしらべ」―中学受験生への記述指導
第三回 記述の添削で指導者が気をつけたいこと——中学受験生への記述指導