第2章第3節 伊藤亜紗『「利他」とは何か』本文解説

こんにちは、羽場です。
今回は第2章の第3節の短文演習、伊藤亜紗『「利他」とは何か』の本文を読む際に押さえておきたいポイントを解説します。

『スマートステップ現代文』

現代文学習の第一歩を踏み出そうとしている皆さんに宛てて、2023年3月にZ会から拙著『スマートステップ現代文』が刊行されました。

現代文の学習に悩んでいる受験生、これから現代文学習を始めようと思っている受験生はぜひ手に取ってみてください。

今回の記事は問題を解いた上で、本書の解説と合わせてご覧いただくとより効果的です。

本文読解のポイント――指示語と接続語に注意する

今回の節テーマは「指示語」の働きです。

とはいえ、これまでに学習してきたことが無関係だということはありません。
本書に限らず、学習したことを他の文章でも活用していく意識を持ち続けましょう。

当然、前節で学習した接続表現にも意識を向けていく必要があります。

今回の場合、第③〜⑤段落の冒頭に接続表現が用いられていることに気づくでしょう。
これらの接続表現はそれぞれ、前の段落とその段落をつなぐ働きをしています。

どのようなつながりがあるのかを意識しながら読み進めてください。

第①段落の読解

それでは、第①段落から見ていきましょう。

冒頭の一文が「現代は、……」と始まっています。
前節の「本文解説」でも述べた通り、時代を表す表現が用いられた場合、対比の可能性を疑います

実際のところ、今回は「対比」というわけではありませんが、対比の可能性を考えながら「現代」の特徴をチェックしていくことは重要です。

結果的に

今回の出題範囲では現代と他の時代が対比されているわけではなく、現代社会に焦点を当てているだけだったということです。

第①段落の構造――具体と抽象

第2文(「取り付けた〜」)に目を移しましょう。

この文の中に書かれている「取り付けた……被引用数など」は第1文で述べられている「数字」の例です。
ここには、第1節の本文解説でも少し紹介した「具体と抽象の関係」が見て取れます。

具体と抽象の関係

端的に表現された「抽象」部分は、詳しく「具体化」されることが多い。
第2章[第6節]

したがって、

現代=数字で測られる時代=常に「数字を意識(する)」時代

という関係性を読み取りたいところです。

第②段落の読解――「そんな」から関係性を読み取る

第②段落。

空欄Aの直前にある「そんな」に注目しましょう。

指示語の中には一連の話を短くまとめる働きをするものがありました。
今回の「そんな」はまさにこの働きをする指示表現です。

ここでは第①段落を受けて「そんな[ A ]」というカタマリを作っています。

したがって、[ A ]には第①段落の話をまとめた表現が入ることが予想され、ミュラーの『測りすぎ』はその弊害を論じた本であると紹介されていることを読み取りましょう。

そして、続く文で述べられている「それが……なってしまいます」の部分が、その「弊害」を具体化している箇所だと理解できればOKです。

第③〜⑤段落の読解――接続語から段落同士の関係性を読み取る

第③段落以降も読んでいきます。
先ほども述べた通り、それぞれの段落冒頭にある接続表現に注目することがここでのポイントでした。

第③段落冒頭にある「たとえば」は、前に述べた事柄に対して具体的な例をあげて説明するときに用いる語です

したがって、この段落では具体例が続くことが予想されます。

具体例の働きと読む際の注意点

ここで、「具体例」というものに注目してみましょう。
具体例は一体どんな働きをし、どんなことに注目して読み進める必要があるのでしょうか。

言いたいことを「わかりやすくする」具体例

こんな例を考えてみましょう。
友人から「何か飲み物を買ってきてほしい」と言われたら、何を買ってきますか?

「飲み物」というだけだと漠然としていて、何を買えば良いのかわかりません(もちろん「あいつはこれしか飲まない!」という場合もあるでしょうが)。

そこで、「たとえば、水とかお茶とか……」のように具体例を出すことで、「飲み物」をわかりやすくするために具体例を用いるケースがあります(図1)

言いたいことの「説得力を高める」具体例

あるいは、こんな場合もあるでしょう。

先生が「現代文は復習が大事だ!」と語ったとします。
その際、受講生との間にまだ信頼関係ができていない場合はどうしても発言の説得力は低くなってしまいがちです。

そんなとき、復習を欠かさず成績を伸ばしていった去年の受講生や(あまり褒められたことではないかもしれませんが)復習せずに苦労した受講生の例を出すことで、説得力を高める場合も考えられます(図2)

いずれの場合にせよ、具体例そのものが「言いたいこと(=筆者の論)」であるというよりも、「具体例を通して伝えたいことがある」から具体例を用いています(図3)
我々はこの「具体例を通して伝えたいこと」を読み取っていきたいものです。

具体例が出てきた際に意識すべきポイント

具体例が出てきた場合は次のことを意識してみましょう。

具体例が出てきた際のポイント
  1. 何についての例なのか意識する
  2. 何を導く例なのか意識する

「落ちこぼれ防止法(NCBL)」の例

改めて第③段落以降に目を向けてみましょう。

「たとえば」以降で述べられているのは「落ちこぼれ防止法」の例です。

これがどのような取り組みなのかは第③段落で説明されていました。
学力格差をなくすために、共通テストを通して学力を測定しようとした話が紹介されていますね。

「落ちこぼれ防止法」によって引き起こされた良くない事態

続く第④段落を見ると、「ところが」という接続表現から始まっています。
「ところが」は逆接を表す接続表現です。

ここでは「ところが」に続く形で、「落ちこぼれ防止法」に基づく学力テストによって引き起こされた事態が説明されています。

第③段落で紹介され始めた具体例が続いていると考えて良いでしょう。

そして第⑤段落では、「さらに」という形で、テキサスやフロリダで起こった事態が付け加えられています。
これは「良くない事態」なので、第④段落で述べた「良くない事態」に付け加えられたものと考えられます。

当然、これも第③・④段落で登場した具体例が継続していると考えて構いません。

したがって、今回の文章全体は「数値化が目的となった現代社会の弊害」について述べた第①・②段落と、その「弊害」が実際に起こっていることを示す具体例を挙げた第③〜⑤段落という構成になっていました。

では、これらを踏まえて設問に解答していきましょう。

伊藤亜紗『「利他」とは何か』読解のポイント
  1. 学習したことは他の文章でも活用していく
  2. 述べたことをまとめる指示語に注目して論のつながりをおさえる
  3. 具体例の扱い方をおさえる

『スマートステップ 現代文』書籍情報

  • 書名:『スマートステップ現代文』
  • 出版社:Z会
  • 著者:羽場雅希[著]・Z会編集部[編]
  • 発売日:2023年3月10日
  • 定価:1,100円(税込:1,210円)

第2章「読解スキル編」補講
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※本記事はプロモーションを含む場合があります。

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