『スマートステップ 現代文』のその先へ――あとがきに代えて

「ここがロドスだ、ここで跳べ」という言葉があります。

イソップ寓話「ほら吹き男」が元になっている言葉です。さまざまな場面・解釈で用いられますが、多くの場合「理想を思い描くよりも今目の前にある現実を生きよ」という意味で使われているようです。

夢を持つこと、目標を胸に抱くことは良いことでしょう。そしてそれを実現・達成することができたならこれ以上なく素晴らしいことです。自分の夢を実現させるために受験を決意したのだという人も多いかもしれません。

理想を実現させるためには目の前の現実と向き合う必要があります。叶えたい夢や理想が大きければ大きいほど、目を背けることなく自分の現状をきちんと把握し、まずはその現実を受け入れる。その上で、実現までに必要なプロセスを具体的なプランに落とし込み、実際に行動に移しながら「今」と全力で向き合っていく。その積み重ねが不可欠です。

一方で、今はまだ目標が見つからないという人もいるでしょう。いや、むしろ受験生の段階では、やりたいことが見つからない、自分が本当に目指したいものが見えないというのはある種自然なことかもしれません。でも、そんな人たちにもきっと、いつかは自分の目標に出会う瞬間が訪れるはずです。今はただ、その瞬間を待ちながら、自分の目指すべきものが見つかったときにすぐ動き出せるよう、準備を積み重ねていってください。

國分功一郎氏は『暇と退屈の倫理学』の中で、人が退屈という状況から「とりさらわれる」経験について述べています。

目標についても同様です。
目標なく過ごす日々から「とりさらわれ」る経験は、思考の訓練を積みながら「待ち構える」しかありません。

「『スマートステップ 現代文』執筆に至った背景」でも触れたように、本書の制作は 「目標の有無に関わらず、現代文の学習をはじめてほしい」という思いにもとづいて進められていきました。目標がある人はその目標に向けて、まだ目標が見えていないという人はいつか訪れる「目標に出会う瞬間」を待ち構えながら、本書を活用しつつ着々と準備を進めていってください。

人生は選択の連続であり、何かを選び取るということは多くの場合、何かを選ばないということを同時に意味するものです。そしてその選択の際、私たちは自分の知っている世界、自分の持っている判断基準に照らし合わせて選ぶしかありません。

「勉強」は自らの世界を広げ、判断基準を増やし、後になって後悔することの少ない選択をするための広い視野を獲得させてくれる一つのツールになるはずです。

ぜひ、本書を活用してこれから先の人生を切り開いていく第一歩を踏み出してほしいと心から願っています。

最後に、紙面の都合上本書には掲載できなかった謝辞をこちらに掲載して、『スマートステップ 現代文』予講を締めくくりたいと思います。

『スマートステップ 現代文』の執筆に際してはZ会編集部の皆さんや同僚・先輩講師の皆さんから多くのアドバイスと知恵を授けていただきました。講師室やSNS、プライベートの会話の中でいただいた数多くのヒントが、本書の内容に活きています。とりわけ、Educational Loungeに寄稿してくださっている先生方には、お送りいただく記事原稿を通して、多くのことを学ばせてもらっています。心より御礼申し上げます。

そして何より、これまでに接してきた生徒のみなさんとのやりとりの蓄積がなければ、本書の完成はありませんでした。対面でもオンラインでも、「受験」というみなさんの人生の一部分にさまざまな形で関わらせてもらったことで、今回「書くべき内容」に出会うことができたのだと思っています。本当にありがとうございました。

本書に関わってくださったみなさんに最大の感謝を。

Educational Lounge
代表 羽場雅希

 

『スマートステップ 現代文』書籍情報

  • 書名:『スマートステップ現代文』
  • 出版社:Z会
  • 著者:羽場雅希[著]・Z会編集部[編]
  • 発売日:2023年3月10日
  • 定価:1,100円(税込:1,210円)

『スマートステップ 現代文』予講
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