お疲れ様でございます。日本史科の佐京です。
第15回目の今回は「宝暦・天明期の文化」についてお話します。
宝暦・天明期の基本情報
政治史的理解:徳川家重・家治中心
中心人物:田沼意次による商業資本の積極的活用
外交史的理解:洋学の発達
宝暦・天明期の文化は18世紀半ばの徳川家重・家治の治世を中心とした時期の文化です。
この時期、政治史的には田沼意次による商業資本の積極的活用がなされ、特に株仲間を広く公認し、そこからら運上・冥加などの営業税収入による増収が図られました。
また南鐐二朱銀の鋳造によって金を中心とする貨幣制度への一本化が試みられました。
▼田沼時代についてはコチラ
こうした商業資本を活用した財政政策は、民間の文化・芸術・学問を刺激し、多様な発展を遂げていきました。
今日はこのなかから美術と文学を見ていきましょう。
宝暦・天明期の美術
錦絵
前回の元禄文化でお話しした「浮世絵」、覚えておられますでしょうか。
▼元禄文化についての記事はコチラ
「見返り美人図」で知られる菱川師宣によって創始された浮世絵はこの時期、鈴木春信が多色刷の版画である錦絵として完成させました。
錦のようなきれいな色合いという意味。鈴木春信を中心としたグループがこの技術を飛躍的に進歩させた。
錦絵はいまでいうフルカラー印刷を人力でやるものですから、絵師・彫師・摺師の息がぴったり合わないと何が何だかワカラナイ絵になってしまいます。
それだけでも高度な技術が発達していることがわかりますね。
浮世絵の代表作としては以下の作品が挙げられます。
・五常(鈴木春信)
・当時全盛美人揃(喜多川歌麿)
・三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛(東洲斎写楽)
喜多川歌麿は寛政期を中心に活躍した浮世絵師で、「婦女人相十品」などで女性の半身像を描き、役者絵に用いられていた大首絵(人物の上半身や首から上を描く浮世絵)を美人画に採用してこの分野の第一人者となりました。
代表作として挙げた「当時全盛美人揃」は吉原遊女の主に膝から上を切り取った特徴的な構図のシリーズ。
取り上げられている遊女の名などから寛政年間の制作とみられています。
東洲斎写楽
も同時期に活躍したとされますが、謎の多い人物です。
約10か月の間に140点余りの錦絵を創作したとされますが、その版元はすべて新吉原の出版業者である蔦屋重三郎です。
蔦屋重三郎はこのあとの文学のコーナーでも登場します。
写生画
浮世絵以外では、写生画も忘れてはいけません。
円山応挙は西洋の遠近法・陰影法をとりいれた眼鏡絵の制作に従事し、写実性と装飾性の調和した画風を確立しました。
代表作は「雪松図屏風」。
まぁ文字通り、雪を抱いた松が描かれているわけですが、この作品、実は雪を描かずに雪を描いているのです!
この「雪」の部分は色を塗らずに紙の地の色を生かした白なんですね。
さらに松には輪郭がなく片側の色を徐々にぼかしていく片ぼかしという方法をとっている。
こうした工夫もあって、雪にやさしく包まれた松の質感が表現できているのです。
さすが国宝。
美術の分野では他に、文人画の池大雅・与謝蕪村や洋風画の司馬江漢もチェックしておきましょう。
宝暦・天明期の文学
江戸時代中期以降、貸本屋などの普及や識字率の向上によって出版物は広く民衆のものとなっていきました。
ここでは洒落本・黄表紙・読本を取り上げていきましょう。
洒落本
山東京伝
は遊女を妻にするほど遊里に精通していることでしられ、黄表紙『江戸生艶気樺焼』や洒落本『仕懸文庫』などを世に送り出しています。
『仕懸文庫』は深川遊女の衣装ケースのことを指しますので、もうこれは遊女の話でしかないわけです。
覚えやすい。
当時、吉原は官許、つまり幕府公認の遊廓として認められていましたが、これに対し、非公認の遊廓というのがありました。
深川、品川、内藤新宿などがそれで、そうした場所を「傍」、つまり「わき」という意味で「岡場所」なんていったわけです。
仕懸文庫はそんな岡場所のひとつである深川仲町での男女の恋愛を描いたもの、成立は1791年ですから寛政期ですね。
寛政改革における出版統制を意識して、本書の包み紙には「教訓読本」なんて文字も見られます。
権力者の出版統制を目の前にして、表現者は必死なのです。
ちなみにこの『仕懸文庫』、出版元はあの蔦屋重三郎でございます。
浮世絵や江戸小説の出版を行うも寛政改革の出版統制で財産の半分を没収。
黄表紙
つづいて、黄表紙を見てみましょう。
恋川春町
は駿河国小島藩士で江戸藩邸が小石川春日町にあったことからこの名にしたとされます。
代表作は田舎出身の若者が夢で江戸での栄華をきわめる『金々先生栄華夢』や、寛政改革を風刺して処罰の原因となってしまう『鸚鵡返文武二道』。
細かいですが、田沼意次と蝦夷貿易を題材とした『悦贔屓蝦夷押領』なんてのもあります。
タイトルが分かりやすくて覚えやすいですね(笑)。
読本
最後は読本。
いままでみてきた洒落本・黄表紙が寛政改革の処罰の対象となった一方、読本は「無傷」。
これはなぜなのでしょう。
代表的人物は上田秋成。
上に記したように読本は勧善懲悪などの儒教的道徳を採用したものが多く、その意味で幕府のお咎めを食らうような作品は出にくかったのでしょう。
幕府の公式イデオロギーは朱子学ですからね。
文学ではほかにも俳諧や川柳もチェックしておきましょう。
江戸時代の文化は作品に迫れば迫るほど、覚えやすく、定着しやすいものが多いです。
ぜひ楽しんで勉強してみてください!
ではまた次回、「化政文化」でお会いしましょー!
▼宝暦・天明期の文化について詳しくはコチラ
日本史科予備校講師。学びエイド認定鉄人講師。
首都圏の予備校を中心に出講し、その講義は「するする頭に入ってくる」「勉強しなきゃと意識が変わる」「出てきた土地に興味が湧く」と受験生に高い支持を得ている。
授業のコンセプトは「大学に行くのが楽しみになる授業」。
科目の内容はもちろんのこと、丸暗記のみに頼らない本番での知識の導き方・解き方、現場に足を運んで得た知見などをもとに大学に行っても役に立つ「受験科目」を展開。
受験生におくる言葉は「一生勉強、何のこれしき。」
「佐京由悠の日本文化史重要ポイント」
第1回 初の仏教文化、飛鳥文化
第2回 国家仏教の形成と白鳳文化
第3回 鎮護国家思想と天平文化
第4回 弘仁・貞観文化
第5回 国風文化(前編)
第6回 国風文化(後編)
第7回 院政期の文化
第8回 鎌倉文化(前編)
第9回 鎌倉文化(後編)
第10回 室町文化(前編)
第11回 室町文化(後編)
第12回 桃山文化
第13回 寛永期の文化
第14回 元禄文化
第15回 宝暦・天明期の文化