
こんにちは。数学講師の大塚志喜です。
今回の記事では、数学Iで扱う「論理と集合」の分野について書いていこうと思います。
この分野は問題さえ解ければいいと勘違いする学生がたくさん出てくる分野です。
必要条件や十分条件など、覚えておかなければいけない用語が出てくるのですが、ただ単に問題の解き方を覚えて答えを出せればおしまいというわけではありません。
むしろ、ここでは内容をしっかり自分のものにすることの方が重要です。
解き方だけでなく、それぞれの問題で何が起こっているのかしっかりと理解することも大切にしてほしいと思います。
目次
集合
まずは集合について話していきます。
まずは定義をしっかりと覚える
まずは定義をしっかりと覚えましょう。
数学での集合とは、「ある条件を満たすもの全体の集まり」を指します。
このときに気をつけなければならないのは、「ある条件」についてです。
この「ある条件」というのは、なんでもいいわけではありません。
必ず「満たすか満たさないかが客観的に判断できるもの」でなければいけません。
以下、単に「条件」と言った場合は、満たすか満たさないかが客観的に判断できるものであるとします。
$100$は大きい数か
たとえば、「大きい数の集まり」について考えてみましょう。
$100$は大きい数でしょうか。
この「大きい」というのは人によって判断が変わってきます。
このように、人によって判断がブレる可能性がある条件は、集合を構成する条件になることができないということです。
一方で、「$x^² +2x-3=0$を満たす実数$x$」「$5$より大きい自然数」などは、誰がみても条件を満たすか満たさないかを同じように判定することができます。
このように、普段使うような「集合」という用語も数学的に用いる場合にはいつもと違う条件がくっついてきます。
確実に理解しておきましょう。
記号の使い方もしっかりと覚える
また、用語だけでなく記号も重要です。
記号の使い方がそのまま問われる穴埋め問題が過去センター試験で出題されていたり、集合の表記の仕方がしっかりと理解できていればそのまますぐ解けてしまうような問題が大学の2次試験で出題されていたりします。
記号をしっかりと翻訳し、今書かれていることの意味がしっかりと理解できることが重要です。
言葉で説明されている集合を記号で書き表してみたり、逆に記号で表記されている集合を「この集合はこんな集合です」と自分の言葉で説明したりする練習をしましょう。
慣れると大したことはないのですが、慣れようとしない人が多いです。
頑張りましょう。
命題とその真偽
次に命題についてです。
ここも勘違いが起こりやすいところなので、しっかりと理解しましょう。
命題の定義
まず命題の定義です。
命題とは、「正しいか正しくないかが客観的に定まる文や数式」のことをいいます。
そしてある命題が正しいとき、その命題は真の命題であるといい、真でない命題のことを偽の命題といいます。
ここでも気をつけておかなければならないのは、「命題が正しいとはどういうことか」がちゃんとわかっているかどうかです。
$p$と$q$をある条件とします。数学で命題はよく「$p$ならば$q$」という形をしています。
このときの$p$をこの命題の仮定、$q$をこの命題の結論と呼びます。
「『$p$ならば$q$』が真である」とはどういうことか
さて、ある命題「$p$ならば$q$」が真であるとは、具体的にどういうことでしょうか。
これがしっかりと説明できない受験生をよくみます。具体的な例でみていくことにしましょう。
【例題】 命題「四角形であるならば正方形である」の真偽を判定せよ。
どうでしょうか。
これくらい極端な例だとすぐに「こんなことあるはずがない。偽だ」と気付く人も多いでしょうか。
そのとおり、この命題は偽の命題です。しかしここで終わってはいけません。
皆さんにとって重要なのは、この命題が偽であると「正しく」判定できたかどうかなのです。
偽であるのはなぜか
質問を変えてみます。
「なぜこの命題が偽なのか説明してください」
と聞かれてしっかりと答えることができるでしょうか。
すると、ある程度勉強している人は「反例があるので偽です」と答えると思います。
でも、ここでしっかりとしておきたいことがあります。
その「反例」とは一体何なのかをきちんとわかっているのか、ということです。
例えばその反例を次からすべて選びなさいと言われたときに、「自信を持って」すべて選ぶことができますか?
1. 正三角形
2. 直角二等辺三角形
3. ひし形
4. 長方形
5. 正五角形
6. 円
これがはっきりわかっていないといけません。少し詳しくみていきましょう。
「『$p$ならば$q$』が真である」の覚え方
一般に、ある命題「$p$ならば$q$」が真であるとは、条件$p$を満たすものすべてが条件$q$を満たすことを言います。
しかしこの言い方では少し弱すぎるかもしれません。
条件$p$さえ満たしていれば、どんなことがあろうとも条件$q$も成り立つ、と覚えておきましょう。
前者よりも、「条件$p$さえ満たしていれば」と$p$について強く言い換えました。
では命題が偽であるとは、どういうことでしょう。
それは要するに、「真ではない」ということですが、では「真ではない」とはどういうことでしょうか。
簡単にいうと、先程の文章を嘘つきにしてしまえばいいのです。
つまり、「条件$p$を満たしているにもかかわらず条件$q$を満たさないものがたったひとつでも存在する」ということになります。
これがある命題が偽であることの説明になります。
受験生の皆さんがよく忘れてしまうのが、「条件$p$を満たしているにもかかわらず」という部分です。
反例という言葉ばかり頭の中に入っていると、「結論が成り立たないもの」というイメージを抱きがちです。
しかし、そうすると上の選択肢がすべて反例ということになります。
ところが「条件$p$を満たしているにもかかわらず」という部分までしっかりと理解していれば、反例は3、4であるとわかります。
他は全て結論が成り立っていないだけでなく、そもそも仮定も成り立っていません。
このようなものは反例といいません。
ここまではっきりとわかった上で3と4を選ぶことができていれば全く問題ありません。
でも、ここを曖昧にして、「何となく四角形の話をしているから3と4」としてしまう人が非常に多いです。
結論文でなく、仮定についてもしっかりと考えるように癖をつけておきたいところです。
必要性、十分性の理解
最後に必要性と十分性についてです。
この判定がそのまま試験に出てしまうせいか、「必要性と十分性の判定さえできれば良い」というとんでもない勘違いをしてしまう方がたくさん出てきます。
ここで重要なのは、「結局必要性や十分性がわかったところでどうするのか」ということです。
ここが将来的に大切になってくる考え方になります。
少し詳しくみていきましょう。
必要性、十分性は包含関係を意識する
実は先程の命題の話は、集合を用いて言い換えることができます。
命題$p$ならば$4$について、条件$p$を満たすものの集合を$P$、条件$q$を満たすものの集合を$Q$とします。
今、命題$p$ならば$q$が真であるとしましょう。
このとき、「条件$p$を満たすものは全て例外なく条件$q$を満たしている」わけですから、$P\subset Q$が成り立ちます。つまり集合$P$が集合$Q$に完全に包まれている状態になるわけです。
このとき、$p$は$q$であるための十分条件であると言います。
この集合の包含関係とセットで理解しておくことが重要です。
逆の$q$ならば$p$が成り立つとき、$p$は$q$の必要条件であると言いますが、先ほどと逆の包含関係が成り立っていることがわかります。
この場合、集合$P$が集合$Q$を包み込んでいる状態です。
すると、集合$Q$は集合$P$の外側に漏れる部分がありませんから、「集合$Q$の中に入るためには、最低でも集合$P$に入っていなければならない」ことがわかります。
つまり条件$p$は、条件qが成り立つための最低条件であり、条件$p$が成り立っていないと条件$q$なんて成り立つわけがない、という理屈が成り立つことがわかります。
しっかりと意味を押さえた上で必要条件という言葉を使ってほしいと思います。
ベン図を描く
また、今の話は文章だけでは少しわかりにくいところがあると思います。
ベン図を描くとわかりやすくなるので、集合$P$と集合$Q$を図で描いてみると、イメージが掴みやすいと思います。
この包含関係のイメージをしっかりと持っていると、ド・モルガンの法則などの先の話もすっと理解できるのではないかと思います。この辺りをしっかりと意識しながら必要性や十分性について学ぶようにしてください。
くれぐれも、意味がわからなくても判定さえできればいい、なんて思わないようにしてくださいね。
まとめ
今回の記事は以上になります。
どうだったでしょうか。
ここで学んだ内容は、これから先に出てくる論証で用いる大切な道具になりますし、何よりも現実社会で非常に役立ちます。
論理的に破綻していない文章を書く能力、論理的な文章を読み理解する能力はどんな世界でも必要になってきます。
この分野の問題が解ければそれでいいという考えではなく、ここで学んだことをしっかりと自分の道具にしようという気持ちを大切に学習を進めていってください。
ではまた次の記事でお会いしましょう。

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