今回は、平成30年度大学入学共通テスト試行調査の物理の問題から数問をピックアップし、物理を考える上で重要となる見方・考え方を言語化していきたいと思います。
※問題の解説ではありません。
大学入試センターのHPからダウンロードできる物理の問題を解いて答え合わせをして、問題集などの解説を読んでから、問題を見ながらこの記事を読んで下さると良いと思います。
第1問から見る、物理で重要となる見方・考え方
問1――物理現象を正確に捉える
このような文章だけで図が与えられていない問題では、自分で図を描いて物理現象を捉えましょう。
今回の問題であれば、水平投射の図を描くことになります。
物理現象が正確に捉えられないまま式だけで解こうとして誤認をしてしまうことは、物理という自然現象を扱う学問の性質上良くあることです。
問2――問題の設定を読み取る
見たことのない問題設定でも、今までに学んできた物理現象に落とし込む・関連づけることが重要です。
今回の場合、物資は“水平投射”になりますね。
また、この問題は宇宙船が人工衛星のように惑星の周りを円運動しているわけではなく(軌道は周回軌道ではない)、“等速直線運動”しているということに注意。
今までに解いたことのある問題のイメージだけで解いてしまうのではなく、問題文からその問題の設定を読み取ること。
問3――まずは物理現象をしっかりと捉えて基礎に忠実に読み解く
選択肢に目を奪われて、「$mgh→$エネルギー?」という方向だけに思考がいってしまうのではなく、気体の状態を追うのだから「ピストンの力のつりあい」と「状態方程式」と、記述問題の基礎では当たり前のことを当たり前のようにやることが大事です。
選択肢もヒントにはなりますが、まずは物理現象をしっかりと捉えて、基礎に忠実に何を考えていくのかを考えることが大切です。
後半の問題では、気体とピストンを1つの系(system)として見る見方が重要です。
物理では、物体を個々に見るか全体(系)としてみるかという観点がどの分野においても重要です。
行き詰ったら見方を変えられると良いですね。
問4――実像の作図〜いつも通りの手順〜
このような定性的な問題(作図など)を苦手としている人は多いです。
何から手をつけていいか糸口が分からなくなったら、いつも通りの手順(作図など)をひとまずやりましょう。
この問題では“実像の作図”ですね。ひとまずその手順を踏めば、解決の糸口が見えたのではないでしょうか。
第2問から見る、物理で重要となる見方・考え方
問1――図と座標を描いて物理現象を捉える
図がない問題ですので、自分で図を描いて物理現象を的確に捉えましょう。
“速度”はベクトル量ですので大きさと向きをもちます。
ベクトル量を考えるときは、自分で描いた図に座標を自ら書き入れ、座標の正方向・負方向を考えながら、正負の符号に気をつけて解析をしましょう。
運動量や力積などもベクトル量です。
問2――物理量を求める際の両面的な観点
力積$I\text{[N・s]}$の定義を考えて、それだけでは直接求められないから、運動量の変化から力積を間接的に求める問題です。
物理では、物理量を定義で直接求めるか、関係式から間接的に求めるかという両面的な観点が重要となります。
問3――グラフの面積や傾きの単位(次元)を考える
与えられているのは、$f-t$グラフであり、単位(次元)はそれぞれ$f\text{[N]}$と$t\text{[s]}$である。すると、グラフの面積$$\int f ~dt$$は力積の単位(次元)$I\text{[N・s]}$(=運動量の単位)となります。
今回は違いますが、力$f\text{[N]}$が一定の場合は$I\text{[N・s]}=f\text{[N]}×t\text{[s]}$ですね。
このように物理ではグラフの面積や傾きを計算すると、どのような単位(次元)つまり物理量になるのかを考える観点が重要です。まさに積分する、微分する操作です。
また、この問題の注意点は、弾性衝突→力学的エネルギーが保存というように、知識と経験で安直にいかないことです。
グラフの面積の議論をしているということを考えれば運動量の次元の答えになるというようにいけるとは思いますが、選択肢の⑤~⑦には引っかけで運動エネルギーの単位(次元)の選択肢がしっかり含まれていますね。
問5――感覚的に選ばず、答えに根拠を持つ
選択肢のある問題だからといってグラフを感覚的に選んでしまうのではなく、図を描いて現象をつかみ、定量的に計算をして答えの根拠をもつことが重要です。
東大の2次試験レベルの問題が解ける人でも、選択肢があるからこそ感覚で答えを選んでいってしまって、間違えてしまう(物理現象が的確に捉えられていない、根拠が不明確)人がたくさんいます。
第3問から見る、物理で重要となる見方・考え方
一番はじめのリード文で「電磁波の性質に関する次の文章~」と書いてあります。
読み飛ばしてしまいがちなリード文ですが、しっかりと読んで、どのような物理の概念を頭に思い浮かべながら問題を読み進めれば良いのかをつかみましょう。
そのようにトピックが分かっていることで、問題文(文脈)の理解力がぐっと上がります。
問1――条件の表現の仕方
問題文では$$m=0,1,2,3,…$$となっていますが、$$m=1,2,3,4,…$$というふうにおけば、答えは$$2nd=(m-\frac{1}{2})\lambda$$となりますね。
そういったことにも気を配れるようにしていきましょう。
問2――教科書を用いた知識チェックを
物理の見方・考え方ではありませんが、大学入試センターはこういった知識を要する問題も出題します。
教科書を用いて知識チェックをしておきましょう。
問3――光電効果
紫外線領域の電磁波のように波長が短いもの(エネルギーが高いもの)を金属板に照射しないと光電効果は起こりません。
電波は紫外線に比べると波長が長い(エネルギーが小さい)です。
第4問から見る、物理で重要となる見方・考え方
一番はじめのリード文で「電磁誘導に関する次の文章~」と書いてあります。
今回はエレキギターのしくみに関する問題ですが、見たことのない問題設定のときほど、問題文から何の物理現象の議論なのかを捉えることが大切です。
入試問題を解くスキルと大学入学後に使うスキルは本質的に同じ
ここから余談です。
物理の学習をする上で、「入試問題を解くテクニック」という狭い話では捉えないで頂きたいです。
例えば、大学に入学して物理の論文(普通は英語)をサーベイする際も、テクニカルタームや図やグラフから何の物理現象の議論なのかを捉えるわけです。
入試問題を解く際に身につくスキルと大学入学後に使うスキルを切り離して考えるのではなく、本質的には同じであって、そういう幹となる力を身につけるという意識は大事です。
しかし、大学は研究機関ですから、「答えのある問題を解いて得点を取る」という価値観だけの人はその価値観を捨てて、「大学は研究をする場所である」という価値観にシフトしましょう。
“研究”とは何か分からない人は調べてみて下さい。
個人的に、「高校生までに身につけたスキルは保持しつつ、価値観は捨てるべきである大学生」が多くいる印象です。
以上、余談でした。
問1――身近な楽器の音色
エレキギターの音色(波形)は、おんさの音の正弦波とは違いますね。
身近な楽器の音は様々な音色(波形)となっています。
問3――仮想的に電池の回路用図記号を描きこむ
誘導起電力は電磁誘導により生じる電圧$V\text{[V]}$のことです。
コイルに仮想的に電池の回路用図記号を描き込むなどして、どちらの端子が高電位になるのかを的確につかみましょう。
問4――定性的・定量的、両面的な見方・考え方
図8と比較して落下距離を半分にしたという問題ですので、定性的にどうなるのかを考えて間違えてしまう人が多いと考えられます。
そこで、ファラデーの電磁誘導の法則$$V=-\frac{d\phi}{dt}$$という数式を念頭におきながら、$$v=\sqrt{2gh}$$などというように、定量的に答えに根拠をもって答えるようにしましょう。
定性的な問題を定量的な見方で、逆に定量的な問題を定性的な見方でも見れるという両面的な見方・考え方が物理では重要になります。