順列と組み合わせの学習で陥りがちなPとCについての落とし穴

こんにちは。数学講師の大塚志喜です。

今回は,「場合の数・確率」の分野でよく登場する順列(Permutations)と組み合わせ(Combinations)について考えていきたいと思います。

順列と組み合わせは「公式に当てはめれば良い」という考え方を捨てる

順列と組み合わせを教えていると,次のような質問がよく生徒から飛んできます。

どんなときにPを使って,どんなときにCを使うのですか?

この状況はかなりまずい状態で,少なくとも2つの問題があります。

「思考より先に公式を探してしまっている」という点と,「そもそも自分が何を数えているのか自覚できていない」という点です。

 

PやCの公式というのは,自分が数えたいものが何パターンあるかを出してくれる道具でしかありません。
当然のことですが,目的がない人にとっては何の役にも立ちません。

まずはPやCの計算によって,どんなものが求められるのか具体的に理解し,その上で自分の数えたいものを考えてどのように道具を使うべきか考えなければなりません。
ただ単に公式に当てはめて数値さえ出ればいいという考えをまず捨てなければスタート地点にも立てません。

 

例題を通して順列について考える

ではまず順列について考えていきたいと思います。次の問題を考えてみましょう。

例題
4人の学生の中から2人選んで,選んだ順に左から並べる。学生の並べ方は全部で何通りあるか?

 

「並び方だからPだ!」「え,選ぶって書いているからCじゃないの?」という勉強の仕方をまずやめましょう(笑)。

 

数えるものを理解して樹形図を書く

まず皆さんが考えるべきは,「自分は一体何を数えろと言われているのか?」を理解することです。
漏れなくダブりなく数え上げる基本は「樹形図」です。

 

まずは,数える対象が「人の並び方」ですから,人に名前をつけて区別しておきましょう。
4人にA,B,C,Dと名前をつけておきます。

この4人から2人選ぶ樹形図は次のようになります。

今この樹形図の中に,例えば(A,B)と(B,A)があるのがわかりますね?

今回の問題のポイントは,この二つを「異なる場合」とみなして別々にカウントする(つまりこのまま)べきなのか,それとも中身は一緒の2人なのだから「同じ場合」とみなして1通りとしてカウントするべきなのかです。
今回は選んだ人のパターンを数えるのではなく,その人たちの並べ方を数えるわけです。

 

(A,B)と(B,A)は順番が異なっていますので,並び方を数えるのであれば異なる並べ方として扱わなければなりません。
つまりこの樹形図にはとくにダブっているものもなく,さらに漏れもありませんから,この樹形図に現れているものが,今回数えなければならないもの全てということになります。

以上の考察から,求める場合の数は

$3×4=12$通り

 

ということになります。

 

場合の数や確率の問題では,PやCを使わなければいけないのか

「あれ?PとかCは使わないのですか?」と思った人がいるかもしれません。

まさにその考え方が諸悪の根源です。

そのように思ってしまう人の根底にあるのは,「場合の数や確率の問題では,PやCを使わなければいけない,使うべきだ」という思想なのではないか。

とんでもない。

自分が問われている結果を求められればそれで良いのですから,必ず指定された道具を使わなければならないということは決してないのです。

 

今回の問題は上で書いたように,「樹形図を考えてそれを数え上げればおしまい」なのですから,わざわざよくわかっていない公式を持ち出す必要などそもそもないのです。

 

Pの公式は、樹形図がしっかり見えている人にとって不要な公式である

ではPの公式はそもそも何なのでしょうか。今回の問題を,Pを使って解くと,

${}_4\rm{P}_2=4×3=12$通り

となる。

これだけ書いても正解なのですが,解答の数値ではなくそれを導く掛け算の方に注目して下さい。
樹形図を数えるときの計算と同じです。

実は,これはたまたま起こったことではありません。

そもそも順列計算とは,「n個の異なるものの中からr個選び,それを並べたときの並び方が全部で何通りあるか」を数えてくれる公式なのです。

 

気がついたでしょうか。
つまり樹形図を数えてくれる公式なのです。

ということは,「樹形図がしっかり見えている人」にとっては,そもそもPの公式自体いらないものなのです。
極端に言ってしまうと,Pなんてものはただ単に表記を簡潔にするために用いているだけで,答えを出すだけであれば「全く必要のない公式」なのです。

 

実際,1年を通して僕が授業中に順列という意味でPと書くことは通常一切ありません。
樹形図がしっかり見えている僕にとっては全く必要のないものなので当然です。

そもそもPの公式を使おうというところが,場合の数の苦手意識を助長しているのではないかと僕は思っているところです。

 

例題を通して組み合わせについて考える

では最後にCについて考えてみます。次の問題を考えてみましょう。

例題
4人の学生の中から2人選ぶ。学生の選び方は全部で何通りあるか?

 

樹形図の中にたくさんある「ダブり」を除く

先ほどの問題のように,まずは学生に名前をつけて区別し,樹形図を考えてみる。

先ほどの問題と違い,今度は(A,B)と(B,A)が同じになるので,樹形図の中にダブりがたくさんあることになる。

 

このダブりを除いていかないといけない。

まずは(A,B)と(B,A)が同じなので,この2通りから1通り引いておかなければならない。
またダブりはこれだけではなく,例えば(B,D)と(D,B)も同じだからまた1通り引かなければならない。
まだたくさんダブりがある。

 

やろうとしていることは正しいのだが,このやり方では「一体何回1を引けばいいのか」がなかなかわかりにくい。

 

別の方法を考える

ということで別の方法を考えてみる。

要は2通りを1通りに減らしてしまえばいいのだ。
2を1にする方法は-1だけではない。$\frac{1}{2}$しても2通りを1通りにすることができる。

 

つまり,

$(\rm{A}, \rm{B})×\frac{1}{2}+(\rm{B}, \rm{D})×\frac{1}{2}+$ ・・・

と,すべて$\frac{1}{2}$していってもダブりをなくしていくことができる。
そしてこの方法であればなかなか面白い発展がある。

-1では何回やったらいいかよくわからないのだが,$×\frac{1}{2}$であれば,すべてに$×\frac{1}{2}$がついているので,括ることができる。

 

つまり上の式は,

${(\rm{A}, \rm{B})+(\rm{B}, \rm{D})+ ・・・}×\frac{1}{2}$

と書くことができる。

そして{ }内の総和は,そもそも樹形図で数えた全パターンであるから,求める選び方の総数は
$\frac{3×4}{2}=6$通り
となる。

これが「ダブりで割る」とよく言われている方法の本質であり,この計算式のことを${}_{4}\rm{C}_{2}$と書いているだけなのだ。

 

2つの技術が身についている人に記号など究極的には必要ない

「樹形図を数える」「ダブりで割る」の2つの技術が身についている人からすると,Cなんて記号は究極的には必要ないものなのだ。

 

Cで書くメリットを生かせる場面でCを使う

ただ,Cに関してはよく授業で僕も用いることがある。

先ほど言ったように,PやCの記号は「表記を簡潔にする」というメリットがある。
Pを使う場面など全くと言っていいほどないのだが,Cは結構な頻度で出現する。

 

二項定理などでは計算式で書くよりもCで書いたほうが綺麗で簡潔に書くことができる。
このようにメリットを生かせる場面であればCを使ってもいいと思う。

 

おわりに——無理に使おうとするのが問題である

この記事で伝えたいのは,無理にに覚えたりこじつけたり使う必要がないのに無理やり使おうとするのが問題だ,ということです。

今回のお話はこれくらいにしておきましょう。
それではまた次の記事で。

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