出典について
原民喜「翳」
原民喜については原爆体験に基づく詩「原爆小景」や小説「夏の花」等が有名だが、今回の出題は1947年に発表された小説の一節である。『定本原民喜全集』第1巻(青土社)、『原民喜戦後全小説』(講談社文芸文庫)所収。
なお、原民喜については以下の記事で紹介した書籍に詳しいので、ぜひ一読をおすすめしたい。
所感
文体の古さや漢字、注の多さから読みづらさを覚えた受験生も多いとは思われるものの、設問自体は標準的なものだった。また、本文読解時に時系列の整理を意識できるかどうかが鍵だった。
解答
【問1】ア=① イ=① ウ=④
【問2】④
【問3】②
【問4】⑤
【問5】②
【問6】③・⑥
設問別解説
各設問についての解説は以下の通り。
設問別解説——問1[語句の意味]
(ア)――「興ずる」とは「楽しむ」こと。「~し合う」とあることにも注目する。
(イ)――「重宝」とは「便利で役に立ち、よく使う」ことを意味する。
(ウ)――「晴れがましい」とは「(晴れの場に立っていて)光栄に思う気持ち」を指す。
いずれも、小説のみならず日常的にも用いる語であり、きちんと押さえておきたい語句である。
設問別解説——問2[心情説明]
指示表現「そうした」が指している内容をとらえると、同段落冒頭からの
「私は妻の遺骨を郷里の墓地に納めると、(中略)四十九日を迎えた。」
「輸送船の船長をしていた妻の義兄が台湾沖で沈んだということをきいたのもその頃である。」
「サイレンはもう頻々と鳴り唸っていた」
を指していることが把握できる。これらの状況を傍線部内で「暗い、望みのない明け暮れ」と表現されていることに注目する。そのような「戦局の悪化」「身近な人々の死」という状況下でも妻との日々を回想しつづけていたという内容を選択する。
設問別解説——問3[心情説明]
心情のきっかけとなった事態に注目すると、
魚芳たちは「(注)になえつつ」の姿勢を実演して興じあっているのであった。二人とも来年入営する筈であったので、兵隊の姿勢を身につけようとして陽気に騒ぎ合っているのだ。
(注)「になえつつ」――銃を肩にかけること。その姿勢をさせるためにかけた号令。
こうした様子を見ていることがきっかけになっていると把握できる。妻はその様子を見て「その恰好がおかしいので」「笑いこけていた」が、彼らは兵隊としての所作を実演していたのであり、平和な日常が失われていく様子を感じ取っていたと考えられる。
設問別解説——問4[心情説明]
本文89行目に「台所の閾から奥へは遠慮して這入ろうともしない魚芳」とあることに注目する。当該箇所は傍線部から離れているため、本文読解時にこの箇所と傍線部周辺との関係性に注目しておきたい。
設問別解説——問5[心情説明]
本文と選択肢との対応関係を確認する必要があり、選択肢の処理に時間がかかったことが想像される。とはいえ、丁寧に対応関係をとらえていければ正解にたどり着くことができる。
設問別解説——問6[表現理解]
問5同様に、本文と選択肢の対応関係を確認する必要がある。なお、選択肢を見る際に「表現」「内容・効果」「表現と内容・効果の関係性」の3つに分けて判断していきたい。
③は「人物や動物の様子をユーモラスに描いている」わけではない。
⑥は「『私』の生活が次第に厳しくなっていったことを表している」わけではない。