こんにちは、羽場です。
今回は第2章の第8節の短文演習、藤岡陽子『金の角持つ子どもたち』の本文を読む際に押さえておきたいポイントを解説します。
現代文学習の第一歩を踏み出そうとしている皆さんに宛てて、2023年3月にZ会から拙著『スマートステップ現代文』が刊行されました。
現代文の学習に悩んでいる受験生、これから現代文学習を始めようと思っている受験生はぜひ手に取ってみてください。
今回の記事は問題を解いた上で、本書の解説と合わせてご覧いただくとより効果的です。
目次
小説文の本文読解では3つのポイントを意識しながら読み進める
今回のテーマは「場面展開と人物像」です。小説読解の基本となる要素を掴みましょう。
小説の本文を読解する際にまず意識しておきたいポイントは次の3つです。
- 登場人物を把握する
- 場面展開を把握する
- 心情を把握する
心情把握は次の第9節で扱います。
ここでは登場人物・場面展開について確認していきましょう。
場面展開の把握で意識すべき5つのポイント
まずは場面展開の捉え方を見ていきます。
小説読解では、「場面」を意識しながら読んでいくことが欠かせません。評論文で意味段落/話題を意識するのと同様に、設問を速く解く上でも重要です。
場面展開をおさえる上で注目すべきポイントは次のとおりです。
- 時間・時系列の変化に注目する
- 舞台となる場所の変化に注目する
- 登場人物の登場・退場に注目する
- 視点の変化に注目する
- 話題の変化に注目する
ここでは「時間・時系列の変化」について少し掘り下げていきましょう。
時間・時系列の変化に注目する
日常生活では時間が一律に流れていくものですが、小説の中では作者の手によって時間が自在に変化します。
場面展開をおさえる上で意識しておきたいのは「時間(時系列)」の変化と場面の変化の関係性です。
目安として次の2点に注目しておくとよいでしょう。
- 時間の流れが断続的な部分
- 回想シーン
時間が大きく変化した場合は場面が変化している可能性が高いと考えておくと良いでしょう。
回想シーン
大きく時間帯が移る中でも注意しておきたいのが「回想シーン」です。
回想シーンとは、主に主人公が過去の出来事を思い出している場面だとここでは考えてください。
では、第8節の短文演習、藤岡陽子『金の角持つ子どもたち』の場合、傍線部Aの直後から18行目までがそれに該当します。
ここで注意すべきポイントがあります。
回想シーンの中では時間が過去に戻りますが、回想シーンの前後の時間は現在です。
つまり、次のようなイメージです。
現実の時間の流れに即して言うならば、回想シーンの前で起こっていた出来事の後に起こるのは回想シーンの後の出来事。回想シーンで描かれている部分は現実の時間の流れとは異なります。
したがって、回想シーンは回想シーンとして読む。その上で、現在と現在を繋ぐというように、回想と現在の時間を区別しながら読んでいく必要があるわけです。
登場人物の把握で意識しておきたい3つのポイント
次に、登場人物に関する事柄の把握の仕方を確認していきましょう。
ここで押さえておきたいポイントは次のとおりです。
- 登場人物の人物像を把握する
- 人間関係・距離感を把握する
- 視点を把握する
人物像をつかむ
小説に登場する人物の「人物像」をつかむことが欠かせません。
登場人物の言動や本文中に出てくる情報から、登場人物の性格を把握していきます。
【短文演習】で「人物像」のつかみ方を確認する
では、第8節の短文演習、藤岡陽子『金の角持つ子どもたち』で確認していきましょう。
「菜月」の人物像を捉えていきます。
この時点では「子どもにかつての自分の姿を重ねる」「子どもに自分の願いを叶えさせる」というマイナスの方向に捉えてしまうかもしれませんが、早とちりには注意してください。
実際、最終段落まで読み進めるとまた違う一面が見えてくるはずです。
「そういうこともあるよね」以降の記述から、夢が叶わなかった現実を受け入れながら生きている人物であることがつかめればひとまずOKでしょう。
人間関係・距離感をつかむ
次に、人間関係・距離感の把握について見ていきます。
同じ言動でも相手との関係性によって意味が変わるということを、これまでの人生の中で何度も経験してきたのではないでしょうか。
これは小説でも同様です。したがって、登場人物が複数出てくる場合、それぞれの関係性を把握することが欠かせません。
相関図以上に「距離感」を重視する
「人間関係をつかむ」と言うと、いわゆる相関図を思い浮かべるかもしれません。たしかに人間関係が複雑な小説などでは、相関図を描くように人間関係を整理する力は必要です。でも、それだけでは不十分です。
小説の読解をする際には、相関図のようなほぼ固定化されたものをおさえるだけでなく、この「距離感」「関係性」に注目することが重要です。
距離感や関係性の読み取れる箇所、変化した箇所は見逃さないようにしておきましょう。
視点をつかむ
最後は「視点」について解説します。
ちなみに、この「視点」については今回の問題だとそこまで重要とはいえないかもしれません。ただ、小説を読んでいく際に意識しておきたいポイントの一つです。
同じ出来事であっても、視点が異なれば描かれ方や感じ方は変化します。
Aの選手やファンは「AがBに勝利した」と表現するでしょうし、Bの選手やファンは「BがAに負けた」と表現するのではないでしょうか。
このように考えると、どうやら次のことが言えそうです。
- 視点によって描かれ方は変化する
- どう表現されるかで、「視点」が見えてくる
一人称視点と三人称視点では注意すべき点に違いがある
小説読解で「視点」に注目しなければならないのはなぜなのでしょうか。
その答えとして、①視点によって描かれ方が変わる、②設問で問われる可能性があることが挙げられます。
小説における視点とは、主に「一人称視点」と「三人称視点」です。
※二人称視点の小説もありますが、まずは一人称と三人称を押さえましょう。
一人称視点の小説と三人称視点の小説の大きな特徴は次のとおりです。
- 一人称視点……主人公目線
→主人公から見える範囲のことしか描けない - 三人称視点……外側(超越者・「神」)からの視点
→あらゆることを見通すことができる
三人称視点の小説では、「語り手」によってあらゆることが見通されます。したがって、登場人物の内面や主人公のいない場面の出来事など、あらゆることを事実として表現することが可能です。
それに対して、一人称視点の小説では基本的に全てが主人公の目を通して描かれる、「主人公の独白」です。つまり、主人公が見える・理解できる範囲でしか語ることができません。
2024年度の共通テスト現代文についての記事でも少し解説しましたが、事実と推論(推測)の区別をつけることは現代文読解の基本です。事実とは言い切れないことを事実であるかのように捉えるわけにはいきません。
視点に注目しながら、注意すべきポイントをきちんと押さえていきましょう。
おわりに――小説の場面展開と人物像を把握する
ここまで、小説読解で意識しておきたいポイントを解説してきました。
改めて、小説の本文を読解する際にまず意識しておきたいポイントを掲載します。
- 登場人物を把握する
→人間関係、関係性(距離感)、視点に注意する - 場面展開を把握する
→時系列・場所の変化、登場人物の登場や退場、視点・話題の変化に注意する - 心情を把握する
これらを意識しながらとらえた全体像と、第9節で扱う「心情把握」を踏まえて、問題を解いていくことになります。
『スマートステップ 現代文』書籍情報
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第2章「読解スキル編」補講 | |
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