[連載小説]像に溺れる #79 飛翼――像に溺れる 「てかなんで家出? 高校生?」 「高二です。なんで家出したのか……自分でもよくわかりません」 女性は大げさに噴き出し、ハンドルを叩きながらゲラゲラ笑った。 笑い... 2022年3月26日 鹿間 羊市
[連載小説]像に溺れる #78 無援――像に溺れる 温泉街は想像していたよりも整然としていて、区画整理から間もないような印象を与えた。 新しい道路に中規模のショッピングモールと古い旅館が並び、何やら双方とも居心地... 2022年3月19日 鹿間 羊市
[連載小説]像に溺れる #77 浮動――像に溺れる 川沿いの国道を西に進むと、まもなく路肩の狭い一本道になっていく。 両側には森が壁のようにそびえ、民家が道路と森の隙間を縫うようにぽつぽつと佇んでいる。 時間の流... 2022年3月12日 鹿間 羊市
[連載小説]像に溺れる #76 逃避――像に溺れる 電車からいっせいに、同じ制服の集団が降りていく。 その運動は何か、共通する大きな意思に導かれているみたいに見える。 車窓から、階段に向かう制服の群れを目で追う。... 2022年3月5日 鹿間 羊市
[連載小説]像に溺れる #75 胸懐――像に溺れる 後藤への謝罪は、あっけないくらいにすんなり受け入れられた。 儀式の翌日、昼休みに入った瞬間、ぼくは後藤のもとに近寄った。 自分で驚くほど、一切のためらいなく、「... 2022年2月26日 鹿間 羊市
[連載小説]像に溺れる #74 会遇――像に溺れる 巨大な球体を囲む人々は、奇妙な仕方で互いの手を取り合った。 「手を交差して。こうやって、左手で、右にいる人の手の甲を握ってあげて」 長浜さんはそう言って、手を体... 2022年2月19日 鹿間 羊市
[連載小説]像に溺れる #73 絞車――像に溺れる 「最近、元気ないわね」 回転するろくろに目を向けたまま、長浜さんがそう声をかけてくる。 彼女は事故で夫と娘を失ってから、長年この施設に通い続けているという。 お... 2022年2月12日 鹿間 羊市
[連載小説]像に溺れる #72 加害――像に溺れる 休み時間のさまざまな雑音から飛び出してくるみたいに、カチッ、と長針の音が鼓膜に響いた。 時間が進んだ、と思う。 本当に進んでいるのかはわからない。 ただ、音がし... 2022年2月5日 鹿間 羊市
[連載小説]像に溺れる #71 導師――像に溺れる 意識が溶け出していくような暗闇のなか、反復される祈りの言葉。 光とともに距離が消え失せ、空間がひとつのかたまりみたいに感じられる。 自分の声も他人の声も無差別に... 2022年1月29日 鹿間 羊市
[連載小説]像に溺れる #70 示威――像に溺れる ヤナガワサンとファミレスで話した次の日、昼休み明けに登校してきたヤナガワサンの姿に、教室は静まりかえってしまった。 髪の毛が、ほとんど白に近い金になっていたのだ... 2022年1月22日 鹿間 羊市