[ブックレビュー]矢野耕平・武川晋也『早慶MARCHに入れる中学・高校』


『早慶MARCHに入れる中学・高校』

本書はこのELにも寄稿してくれており、懇意にしている矢野耕平氏、武川晋也氏の著作である。

寄稿者の著作をレビューするなんて癒着じゃないかと思われる方もいるかもしれないが、その批判は当たらない。このEducational Loungeのポリシーは、自身が自信を持って推薦できるものだけを推薦するということである。代表を名乗る私がそのポリシーを覆すわけにはいかない。
発売当日、本書を購入して電車内で読み始めたところ(購入した後に矢野氏から献本までいただいてしまったのだが笑)、指導者の立場から見ても興味深い点が数多あり、気づけば移動の合間に読了を迎えていた。要は個人的な繋がりを差し置いて、レビューの形で本書を紹介しようと思った次第である。

大学入試が混迷化している中では中高受験が「トク」で「ラク」で「リスク」 がない?

さて、本書の帯には「トクな学校」「ラクなルート」「リスクのない選択」という文字が踊っている。

こう見ると、昨今の大学入試が混迷化している中、中学受験や高校受験で付属校に入学することを本書で煽動しているかのように見えないこともない。

しかし、本書の中では中学受験や高校受験で付属校を目指すことの「トク」や受験における「ラク」なポイントといったメリットを紹介するのみならず、それぞれ付属校受験における「リスク」についても言及されている。付属校進学を目指すことも決してリスクのないものではないのである。

「大学入試がどうなるかわからないから、とりあえず付属校を目指そう」と考えてしまいそうになったとき、冷静に考えてみるきっかけになる本なのではないか、直観的にそう感じた。

中学受験の「トク」——「私、勉強好きだもん」

ところで、中学受験での「トク」とはなんなのか。
私自身は中学受験を経験していないため、自分のこととして語ることはできない。しかし、中学受験をすることのメリットは「大学までの道がほぼ約束されている」こと以外にもありそうだ、そんな気はしている。

そんな中学受験の「トク」について、矢野氏の執筆部分から引用する。ずっと憧れていていながらもチャレンジ校のつもりで受験した中学校と、より現実的な本命中学校の両方に合格し、どちらに進学するか悩んだ生徒とのエピソードだ。

翌日、彼女は結論を私に直接伝えにやってきた。
「私、豊島岡に進学します」
「おめでとう。豊島岡はかなりレベルが高いし、理系科目を得意にしている子が大勢いるよ。大丈夫かい」。そう尋ねた私に彼女は微笑んだ。そして、こう言い切ったのだ。
「大丈夫! だって私、勉強好きだもん」

(p.95「中学受験の「トク」「ラク」「リスク」」)

このエピソードのまとめとして、矢野氏はこう語る。

そう、彼女が中学受験を通じて得たものは、「勉強が好き」と公言できるまでになった、その学習姿勢なのだ。

今では大学教員を務めている私の友人がかつてこのようなことを言ったことを思い出す。

「学問って『やめられないから続けている』とか『学ぶほど欲が出てくる』っていうものなんじゃないかなぁ。入り口は何であれ。面白さに気づくきっかけなんて人それぞれ」

そう、無条件にではないにせよ、学ぶことは本来面白さを多分に含んでいるはずである。そしてたしかに中学受験はその面白さに気づくきっかけになるのではないだろうか。

中学受験の勉強が、自分の世界を広げる機会に

「詰め込み教育」が否定的に捉えられ、入試問題についても「知識偏重」と呼ばれることの多い昨今ではあるが、実際の入試問題は—―それが中学校であれ高校であれ大学であれ——知識と思考の融合が求められる。一筋縄ではいかない問題と対峙し、自分の持つ知識を総動員しながら解答を導き出していく、そのプロセスそのものを楽しめる受験生は強い。

そしてそもそも、中学受験に向けた勉強を通して新たな知識を手に入れることで、自分の世界を広げていくことにもつながるだろう。

思えば、私の見知っている国語が得意な中学受験生は総じて文章を読むことそのものを楽しんでいた。
受験である以上、「成績」も「合格校」も重要ではあるだろうが、学ぶことの楽しさに気づくことができたのであれば、それはかけがえのない経験であると私は考える。

もちろん、これは中学受験に限った話ではなく、それこそ「きっかけは人それぞれ」であるし、中学受験で勉強が嫌いになる子どももいるであろう可能性は否定できないが。

「教育」とは「自ら教わり、自ら育つ」ことである。

本書の中で矢野氏は「教育」という語を自動詞で解釈すべきだとし、「『自ら教わり、自ら育つ』姿勢へと私たち周囲の大人たちが働きかけ、導いていくこと。これが大切なの」だと述べている。

これについてはいろいろな意見があるだろう。だが、我々指導者側の意識として考えるなら賛同する指導者も多いのではないか。

武川氏も「高校受験に向く子」の特徴をこのように述べていた。

精神的な成長の優劣が受験結果になんらかの影響を及ぼしてしまうのが、中学三年生による高校入試なのだ。(中略)もちろん、「気合」「根性」といった 古い精神論を指しているのではない。
中学三年生の二月に実施される入学試験を「ジブンゴト」として認識できるかどうか、という意味での「精神」論である。

(p.203「中学受験向きの子、高校受験向きの子の見分け方」)

もちろん受験生本人の自主性がなくとも、合格できる場合はあるだろう。周りの大人が全てを指示し、それを忠実にこなしていくことで合格していくパターンである。

しかしこれまでの指導実感として、そのような生徒はいずれ壁にぶつかる時が来ることが大半だと感じている。それは高校でかもしれないし、大学で、あるいは社会に出た後なのかもしれない。人生は選択の連続であり、正解のない問いに満ちたものなのである。

話を受験に絞って考えてみても同様だ。もちろん言われたことを受け入れる素直さが重要であることは否定しないが、言われたことを「盲目的にこなす」受験生よりも自ら考えながら進んで勉強することのできる受験生は強い。

入試とは、大きな意味を持つ「通過点」である

本書の終わりで、武川氏は次のように述べる。

入試に携わる者として確信していることがある。本文でも述べたように、入試は人生の通過点にすぎないということだ。それでも、この通過点は非常に大きな意味を持っている。結果だけでなく、むしろそこに至るプロセスが生徒たちの人生には重要だと考えるからだ。彼らに助力できるこの仕事に私は誇りを持っている。

(p.220「おわりに」)

「受験」である以上、結果が重要だ。入試が人生の通過点であるのは事実だが、それを言うなら死を除く全ての経験が通過点だ。受験に限った話ではない——反論はいくらでも思いつくだろう。

しかし、武川氏の言う通り、入試という通過点は「結果」以外でも非常に大きな意味を持っていると私も考える。

入試は本当に「意味のある通過点」なのか

しかしながら、それはすでに自らの入試を経験し終えた我々だからこそ言えることなのかもしれない。記憶は美化されるものであるし、惜しくも不合格になってしまった生徒に対し、我々自身が「意味があった」と信じたいだけなのかもしれない。

それでも、受験生たちが志望校合格という結果を目指して全力を尽くす過程で得るものは計り知れない価値を持つ、そう信じている。
いや、正確に言うならば、〝「意味がある」「計り知れない価値がある」ものとなる機会が得られる〟と言った方が近いかもしれない。
受験において良い結果を手にしようと、悔しい結果で受験を終えようと、良かれ悪しかれ多くの経験をしているはずである。そしてそれらは、(それがどのような意味であれ)価値のある経験であることも多いだろう。ただし、それを生かすも殺すも自分次第である。
結局のところ、どんな経験も「ジブンゴト」にできるかどうかなのだろう。

あのスティーブ・ジョブスは言っていた。

将来をあらかじめ見据えて、点と点をつなぎあわせることなどできない。できるのは、後からつなぎ合わせることだけだ。だから、我々はいまやっていることがいずれ人生のどこかで繋がり、実を結ぶであろうことを信じるしかない。

このページをここまで読み進めてくれている受験生がどれほどいるのかについては甚だ疑問ではあるが、中高大学受験のカテゴリーを問わず、今の受験生たちには自分の目指す結果を手に入れるべく、全力を尽くしてもらいたい。残り数ヶ月にはなったものの、諦めそうになっているならば、「入試までに経験してきたことが価値を持っていると実感できる日が来る」と信じて最後まで走り抜いてほしい。点と点が繋がるか、今の自分にはわからないのだと。

受験生の保護者だけでなく塾関係者におすすめの一冊

本書は著者二人の実際の指導経験に基づいて書かれており、具体的なエピソードもふんだんに盛り込まれている。

現場で指導に当たってきた指導者であれば自分の教え子たちと重なる部分もあろうし、保護者であれば我が子の将来の姿をイメージする助けとなるだろうと思われる。

武川氏はTwitterで、執筆時点での想定読者層を以下のように明かしている。

①中学受験を検討している小学校低学年の保護者の方
②中学受験を断念しようと少し考え始めてる小学5年生ぐらいの保護者の方
③付属校か進学校のどちらに進ませるべきかを考えている中学1-2年生の保護者の方
④教育現場にて中学受験、高校受験を担当している講師の方々

氏の言うように、我が子の進路について考えている多くの保護者はもちろんのこと、中学受験塾、高校受験塾の関係者にも薦めたい一冊である。
塾業界に足を踏み入れたばかりの講師は特に。

出版記念著者対談動画とEL公式YouTubeチャンネル

最後に、Educational Lounge主催で撮影した、『早慶MARCHに入れる中学・高校』紹介動画を残してレビューを終えようと思う。両氏がどのような思いで執筆に当たったか、垣間見られるのではないかと考えている(この後第二弾、第三弾もアップする予定)。


 

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