[ブックレビュー]安藤泰至『安楽死・尊厳死を語る前に知っておきたいこと』


「ある」という現象の背後には無数の「ない」が潜んでいるのと同じように、物事には表と裏、光と影が一対になっているもの。
そしてある出来事に対して賛成派がいるとするなら、たいていの場合それに反対する立場の者もいるものである。

そして我々が何かの判断を下す際、あるいは自分の立場を決定する際にできるだけ冷静な判断を下したいと願うなら、さまざまな立場の意見を目にする機会を意識して設けることは必要なのだとも思う。

以前、このコーナーで宮下洋一『安楽死を遂げるまで』を取り上げた。


丁寧な取材に基づく記述をしながら、「安楽死(/尊厳死)」に対する態度を読者に押し付けることなく、それでいて自然と「安楽死(/尊厳死)」について読者が思いを馳せているような良書だった。なお、その続編『安楽死を遂げた日本人』も良書であるので、併せて一読をおすすめしたい。

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私は何かを選択したり立場を決めたりする上で、できる限り様々な情報を集めたい性質である。それを参考にするか否かはケースバイケースだが、できることならいろいろな情報に触れたうえで自分の中で消化し昇華したい(できているかは別として)。

そして、「安楽死(/尊厳死)」についても自分の立場を考えてみる上で、様々な立場の主張に触れてみたいと感じていた。

今回取り上げる『安楽死・尊厳死を語る前に知っておきたいこと』の中で著者が安楽死(/尊厳死)の法制化について(「強く」とまではいえないものの)反対の立場を表明している。手に取らない理由はなかった。

「安楽死」という言葉をめぐる様々な問題

とかく我々は言葉を軽く扱ってしまいがちである。

「安楽死」と「尊厳死」とでは何が違うのか。
「安楽死」と聞いたとき無条件で「良い死」をイメージしていないか。
「良い死」とはそもそも何を意味するのか。

これらはほんの一例だが、突き詰めて考えてみると案外難しいものである。

書名にも表れているように「語る前に知っておきたいこと」が(用語を含め)一つ一つ丁寧に書き記されている本書では、曖昧に考えてしまいがちな問題についても立ち止まって考えさせられる。簡単には答えを決められないであろう問題だからこそ、こうした「語る前に知ってお」かなければならないこと一つ一つを曖昧にすることなく、考え続けていくことは重要なのではないだろうか。

「安楽死」を考える前にまず問わなければならないこと

ただ、本書で強調したいのは、次のことである。私たちが安楽死や尊厳死を肯定する前にまず問わなければならないのは、「私たちは、「死にたい」と言っている人が「死にたくなくなる(生きてみたくなる)」ような手立てを十分に尽くしているのか?」ということ、そして「私たちは、それぞれの個人が自分の生き方(このように生きたい)を追求することを尊重できる社会を作ってきたのか?」ということだ。

(「おわりに」より)

我々人間は死を避けることができない生物である以上、自らの死はもちろん、親しい人の死が穏やかなものになることを願うのは当然だろう。そして、終末期医療や安楽死をめぐる問題に目を向けることも重要だろう。しかし、本書を読み進めるうちに「我々は死についてばかりを考えがちなのではないか」という思いも湧き上がってくる。そしてこれは、安楽死に対する賛否を考える上でも外すことのできない視点であるようにも感じている。

「生」について徹底的に考え、納得のいく生を追求した先にある安楽死(/尊厳死)肯定も、「生」に徹底的に寄り添った先にある安楽死(/尊厳死)反対も、どちらも同様に尊重されるべき考え方なのかもしれない。私の中での個人的な結論はまだまだ出そうにない。

巻末に掲載されている「◎ 次に読んでいただきたい3冊」を読みながら、これからも考え続けていこうかと思っている。

終わりに――「岩波ブックレット」についての雑文

ところで、私は岩波ブックレットに惹かれがちである。

そんなことを考えていたらふと思い出した。
以前取り上げた


これも岩波ブックレットだった。

さまざまなジャンル、さまざまなトピックに触れるきっかけとして、気になったタイトルから手に取ってみることを全力で勧めたい、そんなことを思いながらこの原稿を書いている午前4時過ぎである。

深夜(早朝)に書く原稿ほどいろんな意味で危険なものはないことは重々承知しているので、読者諸賢におかれては寛大な目で見ていただきたいと願ってやまないというところまで書いて、そろそろ画面を閉じようと思う。


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